先日、和菓子メーカーの店舗に長期勤務で入った販売スタッフから相談がありました。
本格的な社会人経験のない若いスタッフで、販売の現場で一人の職業人として働くのは初めてのスタッフでした。
「辞めたいんです…。」
「そうですか、分かりました。いいですよ。」
引き留め工作をどう振り切るかと考えていたのでしょうか、あっさり「いいよ」と言われて逆に戸惑っている感じでした。
「ただ、Mさんも二十歳超えてるんだし今日言って明日辞めるのは許してね、早急に代わりを探すから月末までは頑張ってほしい…。それとも切羽詰まってる感じかな?もしそうならそれでお店に謝りに行って対応はするけれども…、頑張れるかな?」
「はい、大丈夫です…。」
「そか、売場に行っても最近笑顔が見れなかったから、大丈夫かなって少し心配してたんだよ…。ある程度今日の話は予測はしてたんだけど、もし良かったら(辞めたい)理由きかせてもらえないかなぁ…。」
「…。」
他のスタッフからも聞いたことがあるのですが、そこのお店は朝礼で前年度売上に対して目標設定があり売上達成するようはっぱをかけられるとの事。
「ノルマとか、売上とか言われるの?」
「はい…。」
「でも、買って帰れとか、残って売れとか言われないよね?」
「はい…。」
「お店の人と気まずかったりするかな?」
「それは、ないです。皆さん優しいです。ただ…。」
「ただ?」
「売上の事とか言われて接客すると、売上達成する自信もないし、自然にお客様に接しきれなくて楽しいと思えなくて…」
「そか…。Mさん、でもね、販売に限らずだけど、仕事には必ず売上がついて回るんだよ。売上が上がらなければMさんの給料もでないしね。まぁ仕事は、売上やら人間関係やら、いい客もいれば嫌な客もいて楽しいばかりじゃないよ。僕だって、この年になっても逃げ出したい時はあるし、年齢関係なくいくら頑張ってもうまくいかない時もある。自分が限界まで頑張って頑張って、それでもうまくいかなくて…。そんな時は逃げ出していいんだよ、逃げるにしても逃げ方は考えないといけないけれども…。Mさんはまだ若いから、今回逃げ出しても、それを自分が理解して次のチャレンジで乗り越えるときに、それを活かしたらいい。でもチャレンジする事からは逃げ出しちゃダメだよ!」
「…。」
「まぁ今回が社会人初チャレンジだから頑張ってほしい気持ちはあるけれど、無理はしないでいいよ。今までは貴方のお父さんやお母さんが、社会人としての厳しさを経験しながら、乗り越えながら貴方を育ててきた。近い将来いつかは、貴方自身が学生から社会人として、その厳しさを乗り越えないといけない時がまたくると思う。今回縁があって仕事に入ってもらって、出来ることなら今乗り越える応援をしたいけれども、貴方自身が自分をつぶすと思うなら逃げ出していい、全然恥ずかしい事じゃない。貴方がワンステップ上がるのが今回じゃなかったというだけだ…。チャンスはまた来るよ。」
「はい…。」
「じゃ、できるだけ早めに替わりのスタッフ探すから、うまく行けば月末ならないうちに代われるかもしれないし、もし替わりの長期スタッフが見つからなくても月末で抜けれるようにするから、それまで、頑張れるかな?」
「はい。」
そして1週間後、彼女から連絡がありました。
まだ、替わりのスタッフが見つかってなかったので、「限界です」とか言われたらどうしよう…と思ったのですが、そこは私の意に反して、
「もう少し、頑張ってみようと思います。」 という彼女の言葉でした。
これは正直嬉しかった。
代わりを探さなくてよいとか、定着させた…とかじゃなくて、彼女自身が自分の将来に向かって真剣に考えて一歩を踏み出そうとしてくれた事…がです。今がピンチだと思っていたはずの彼女が、今はチャンスなんだと気付いてくれた事がです。線の細い大人しいスタッフでしたから、その声に図太い自信は感じませんでしたが、今の自分をもう一つ上に持っていきたいという彼女なりの意思の現れだったと思います。
メーカーで商品を作っている人は、最終食べて(使って)いただいた人が笑顔になることが目的です。販売者も食べてくれた人が笑顔になることが目的です。和菓子に限らず、常設店舗で販売される菓子類は贈り物で購入されることが多いのですが、それを買った人は送った人たちが笑顔になることが目的です。
であるならば、売り上げに責任をもつ人たちは、「売上金額」を目標にするのではなく、「笑顔の数」を数値化、指標化して目標に使ったらどうかと思うのです。
「昨年の今頃は、●万円、売り上げているから、●●万円の売り上げに向かって頑張ってください!」
プロの販売員ばかりならそれでも良いのですが、そうではなく
「昨年は、私たちの商品を●人の方に笑顔で召し上がっていただきました。工場で生産に携わる人たちは、食べてくれる人たちを笑顔にするという気持ち
で生産をしています。貴方(販売スタッフ)の笑顔で、生産スタッフの思いをお客様に届けて、お客様を笑顔にしてください。本年は皆さんの笑顔の販売で、さらに●●人のお客様に笑顔になっていただけるよう、皆で頑張りましょう!」
「売上金額を上げないと…」
と思う気持ちと、
「あぁ、この商品を買ってくださる人、そして贈られる家族4人、合わせて5人の笑顔を増やそう…そしたら、作った人も私も喜べる!」
と思う気持ちと、どちらのモチベーションが高いでしょうか?
ノルマというと厳しいイメージですが、どうせノルマ割っても外部から入る販売スタッフにペナルティはありません。
販売店舗の販売ノルマを無視しろとは言いませんが、それよりも販売の先にある、購入者または送られ先の笑顔を目標に頑張ってみませんか?!
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