最高のアルバイト



全国どこの百貨店でもやっている北海道展。6日間ある後期日程の3日目にお客様からクレームを頂きました。

その業者さんは乳製品を売っている業者さんで、ジェラートが一押しの業者さんだったのですが、チーズやバターと、牛乳やプリンなんかも有ったのではないかと思います。

そこに入った販売スタッフは、就職活動中の期間に仕事をしたいと求人応募に来られた方でした。その時期レギュラーのマネキンだけでは人手が足りず、何人か面接した中で、その方は確かに食品の販売は未経験の方でした。ただホテルでの接客経験もあり、面接させて頂いた方々の中では雰囲気、態度、笑顔どれも最高で面接で話をしている限りはホスピタリティも感じられ、また学生時代にはクラブのキャプテンでガッツもある、何か余程の失敗でもしなれけばクレームにはならないだろうという方でした。そしてレギュラーの販売スタッフと一緒に前期日程にも入って貰って、慣れた後の後期日程だから大丈夫だろうと考えていた矢先のクレームでした。

何をやらかしたんだろうと思いながら、業者さんに謝る前に、しばらく離れたところで彼女の販売仕事を眺めていました。

ジェラートの冷蔵庫の前には長蛇の列が出来ていて、その業者さんが一生懸命ジェラートを盛っています。で、彼女はと言うと、一生懸命お客様に注文を伺って、注文を伝票に書いて、商品をお渡しして、お会計をして…と一生懸命頑張っています、時には笑顔さえ浮かべながら…。

ん? 何が問題なんだろう…。

忙しそうで、なかなか業者さんに声かけられなくて、ようやく僅かの隙間の時間に、お詫びを伝えクレームの内容を伺ったのですが、それでも余裕がなく、その業者さんから私に浴びせかけられた言葉は以下の言葉でした。

「(彼女は)最高のアルバイトだね!でも私はこの料金でアルバイトを依頼したつもりはないよ。」

百貨店が雇い入れるアルバイトならば、確かに私たちに払う金額の半分で済みます。しかし最初私は意味が分かりませんでした。なぜならそのスタッフは一生懸命にその業者さんのお手伝いをしていましたし、その業者さんも特に彼女に小言を言う訳でもありません。

その晩、そのスタッフに電話をして色々事情を聞きました。すると彼女は正直に、求職中のアルバイトであること、催しの最終日に就職試験があって出勤できない事(お詫び)を伝えたという事でした。

あぁ、あれほど口止めしていたのに…。業者が依頼しているのはプロの販売員で腰掛のアルバイトではないから、「キャリアが浅いのは伝えてもいいけれどもアルバイトで今回限りというのは禁句だよ」って、あれほど口酸っぱく伝えてたのに…。

しかし、心根の正直なスタッフを今更責めたところで何も変わりません。「そりゃ、クレームにもなるか…」と、他に入れそうなスタッフを探し始めました。

しかし、そのスタッフ自体が人手が足りずに新規で採用したスタッフでしたから、新たにレギュラーの販売スタッフを送り込むことはできません。外注スタッフを探すというのも今日の明日で簡単に見つかるものでもありません。色々手を尽くしたものの確実に満足してもらえそうな代替のスタッフも見つからず、仕方なくやはり新規スタッフの中で、その前の週に違う百貨店から評価を頂いたスタッフに最後の2日間を依頼して3日目を迎えました。

少し離れた所で朝からずっと、その業者さんの様子を伺う私は完全に怪しい人でした(笑)。

まだ客の行列が出来ていない早い時間、業者さんに詫びを入れ最後の2日間は違うスタッフを入れることを伝えました。その業者の周囲の業者にも私の所からの販売スタッフが入っています。彼女らはレギュラーのマネキンでしたから、それなりに周りの業者さんから評価を頂いていて、その事を聞いていた業者さんは、たまたま人手が足りず未熟なスタッフが入ったんだという理解をしておられたようで、「次はちゃんとした販売スタッフを入れてもらえるんでしょうね?」と尋ねてこられました。

若干の後ろめたさを感じつつ「大丈夫です」と答えながら…

それは私にとって最後の賭けでした。だって次に入るスタッフも、つい先週地下の催事を経験するまでは、販売どころか接客すら未経験のスタッフだったんですから…。二人続けてダメなら完全に会社の信用はつぶすな…、百貨店の担当にクレーム入れられると、それも仕事が減るな…などと考えながら、その日のその業者さんの売場を眺めていました。

そして売場で働く二人を眺めながら、有ることに気付きました。

どうして、業者は今のスタッフに小言を言わなかったのか?真面目に一生懸命頑張っている彼女が最高の販売員でなくてアルバイトと言われたのはどうしてなのか?なぜクレームになったのか?

そう、クレームになったのは彼女が自らアルバイトと称したからではなかったのです。


これを読まれているあなたは、なぜ彼女がクレームになってしまったか分かりますか?


最後の二日に入る販売スタッフも販売経験の間もないスタッフでしたらから、多くの事を要求しても無理があります。私はそのスタッフに二つの依頼をしました。

一つは、前回の催事同様、「お客様への声がけ」を頑張って下さいということ。そしてもう一つは…。

結果、最終日にその業者さんからは、

「最初のスタッフさんも、人として、またアルバイトとしては最高の方でしたよ、だから怒らず我慢しました。でも私はこういう販売が出来る人が来ると思ってたんだよ、来年も来るかどうか分からないけれど、もし来るとしたら彼女(最後の二日に入ったスタッフ)を必ず入れてくださいよ。」

と言われました。そう、彼女はたった2日で自らの指名を頂いたのみならず、私の失敗も挽回してくれてたのでした。

私が彼女に依頼したもう一つは、

「客の取りこぼしをしないでください。商品の売り逃しをしないでください。」

という事でした。

そう、最初に入ったスタッフは、ホスピタリティもあり真面目で優しくて、行列が出来ているジェラートでてんてこ舞いになっている業者さんのお手伝いをするあまり、目の前のチーズやバターを欲しそうに眺めて通り過ぎるお客様を逃していたのです。試食を勧めれば買ってくれそうなお客さんを見逃していたのです。業者さんはジェラートは客寄せで実は他にも単価の高い、そして自社が自信を持っている全ての商品を売りたいのです。アルバイトはお手伝いでも良いけれども、販売員はそれらの商品を販売する人なのです。

アルバイト的に日数を調整して仕事に入るのはダメではないですが、売り場に立ったら全ての商品を売る(つもりの)プロの販売員でないと、業者さんからはキャンセル・チェンジを食らいます。

「目の前の商品の全てを、目の前のお客さま全てに販売する」、そういう意識が販売員には求められているのです。「客の取りこぼしをしない、商品の売り逃しをしない!」、販売業者はこれ(取りこぼし、売り逃し)を一番嫌がります!


【参考までに】
アイスクリーム系は、丸いカップで盛るタイプと,イタリア式にヘラで三角形に盛るタイプのジェラート系、そして機械を使って巻き巻きするソフトクリーム系がありますが、結構どれも盛るのは難しいのです。自分が食べるのならいざしらず、お客さまに提供するからには、さすがにある程度は綺麗に盛らないといけません。

ジェラート系で難しいのは、温度管理と盛りやすい柔らかさにするための捏(こ)ねる作業。これは力が要ります。また客入りの状況を考えながら冷凍ケースのジェラートの量を調整しなければいけません。


ソフトクリームは、巻き方が出来るかどうかなのですが、これは余程不器用な方でなければある程度は出来ます。ただ、何日も連続で販売している状況の時には、機械の洗浄だったり販売以外の所での手間暇や知識が必要だったりします。


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【後書き】
物産展に限らず百貨店に入る業者さんは、プロの販売員(プロマネキン)を依頼されます。レギュラーのマネキンさんを始め職業意識、プロ意識を持ったマネキンさんを優先にアサインしていくのですが、物産展が重なる時期になるとどうしてもプロパーのプロマネキンさんだけでは回らなくなり、仕方がなく新規の求職者の方の中からアサインをかける場合が出てきます。経験者であれば良いのですが、未経験の方の場合もあります。

そんな時は、

 職業人意識、プロ意識で仕事が出来る人(商売人の気持ちがわかる人)

を面接で選考させて頂いて、更に

 販売の基礎(AIDMA、声がけのしかた、客数の増やし方、客単価の増やし方、売れ筋商品の販売方法など)

を伝達して、それが出来そうな 「笑顔が素敵で気が利きそうな方」 をアサインするようにしていました。学生さんの中にもそんな方はいますし、「皆がやっているけどやり方を間違えている声がけの方法」などをお教えすると、未経験者の方でも、一発目の仕事で指名を頂ける販売員(マネキン)もおられました()

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